移転価格税制(Transfer pricing taxation)
■移転価格税制とは
日本企業とその国外関連者(資本関係が保有又は被保有の関係が、直接間接で50%以上の海外関連会社)間で行う国外関連取引(棚卸取引、役務提供取引、無形資産取引など有償性のある取引)の対価の額が、独立企業間価格(第三者と同様の取引を行った場合の価格)と異なった結果、その日本企業の法人税上の所得金額が少なくなるような場合、その国外関連取引は独立企業間価格で行ったものとして法人税所得金額を算定するもの。
■移転価格税制の目的
本来日本のものとなる税収が、国外関連者(海外子会社等)の所在地国に流失することを防ぐこと。海外各国にも移転価格税制があり、「税金戦争」といわれている。
■移転価格税制の対象企業
国外関連者(海外子会社等)と取引(国外関連取引)を行っている企業すべてが移転価格税制の対象となり、すべての国外関連取引の独立企業間価格を算定するとともにその価格に基づいて法人税の申告を行う必要がある。ただ、年間の国外関連取引価格が数千万円程度以下であれば、独立企業間価格の算定を行わなくても税務上問題となることは少ない。しかし、法人税調査において調査官から「(移転価格ではなく)国外関連者に対する寄附金である」として非常に頻繁に課税が行われているという事実には注意が必要である。
■移転価格の基本三法
・移転価格の基本三法とは、独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method)、再販売価格基準法(Resale Price Method)及び原価基準法(Cost Plus Method)の3つの独立企業間価格の算定方法をいう。
・いずれの方法も、現実に存在する比較対象取引(国外関連取引と比較可能な独立企業間取引、つまり取引の対象物、時期、ボリューム、対価の支払い方法、取引段階、場所などが同じ取引)が前提となっているが、そのような取引は無いか、情報の入手ができないことがほとんどであるため、独立企業間価格の算定方法として採用されるケースは少ない。
■移転価格税制のルール
国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとして、法人税の申告を行うもの。ただし、実際の取引価格が独立企業間価格と比較して海外から日本に所得が移転しているような価格の場合、移転価格税制は適用されない。
■移転価格ポリシーとは
国外関連取引の類型別に、独立企業間価格の算定方法、国外関連者の国外関連取引にかかる適正利益率レンジ水準(目安)、取引規模などを基準とした事前確認制度の申立てを行うかどうかなどを定めた文書をいう。
■移転価格税制のデメリット
・国外関連取引に対するダイナミックなプライシングによる施策、例えば国外関連者に非常に安い価格で製品を売り現地でのシェアを伸ばす、といったことを行うことの障壁となる可能性がある。
・独立企業間価格は関税評価額と相反する側面があり、国外関連取引価格の設定に苦慮することがある。
・同一の国外関連取引について一方の国で移転価格課税リスクがないとき、他方の国で移転価格課税リスクがある可能性が高く、税務的安定性を得ることが難しい。
■移転価格リスク
税法や通達をいくら紐解いても、明確な独立企業間価格を求めることができないという、特殊な税制である。したがって、国外関連取引当事者所在地国の移転価格調査でいずれの税務当局からも移転価格税制上の指摘を完全に回避することができない。
■移転価格の時効(更正期限)
2020年4月1日以降開始事業年度では、法人税申告書提出期限から7年間である。2020年3月31日以前に開始する事業年度では、法人税申告書提出期限から6年間である。
■ローカルファイルの作成期限
・国外関連取引金額が年間50億円以上(受払合計)の取引にかかるローカルファイルは、法人税申告書提出期限までに作成し保管しなければならない。無形資産取引の場合は、国外関連取引金額が受払合計で3億円以上の場合、法人税申告書提出期限までにローカルファイルを作成し保管しなければならない(「同時文書化」という)。また、調査官からローカルファイル提示・提出の要求があった場合は、その要求から最大45日以内に調査官にローカルファイルを提出しないと、推定又は第三者への情報収集をもとにした移転価格課税が行われることがある。
・年間50億円又は3億円の基準に満たない国外関連取引に係るローカルファイルは、作成期限の定めはないが、調査官からローカルファイル提示・提出の要求があった場合は、その要求から最大60日以内に調査官にローカルファイルを提出しないと、推定又は第三者への情報収集をもとにした移転価格課税が行われることがある。
・国外関連取引は独立企業間価格で行われなければならないことから、法律上の作成期限にかかわらず、その国外関連取引を行う前までにローカルファイルを作成することが望ましい。
■価格に関すること
独立企業間価格で国外関連取引を行うことにより、事業上不都合があったり、国外関連者の経営陣の評価が歪んだりすることがあるが、その対応策としては、価格調整金の授受や管理会計を別途行うなどがある。